2009年2月 2日 (月)

戴き小説「23時」(遙か3・ヒノ×望)

 23時  



時刻は、23時。


街の灯りが消え、満天の星が空を彩る時刻。

凛とした冬の透明な空気の中で輝くそれらは、
キラリキラリと瞬いて、深まる夜を楽しもうと誘う。


「今日も一日、皆と一緒で楽しかったなぁ」


硝子の向こうにある、誘惑の光りを目にしながら、窓際に立つ望美。
その口元は綻んでいる。


「異世界の皆が、私の世界にいる……凄いことだよね」


喜んでばかりはいられない状況、にあるのは分かっている。

それでも、楽しく過ごした一日を思い出す度に、
『仲間』が近くにいる喜びを、噛み締めてしまう。


「皆、もう寝たのかな……


隣を見れば、まだ電気がついている部屋がいくつかある。
誰が起きているのだろうと考えて、
ふいに一人の顔が浮かび、頭を振った。


「なんで、一人だけ浮かぶんだろう」


その理由に、なんとなく心当たりがある。
でも、それを認めるには、まだ勇気が足りない。

彼から捧げられる言葉が、
見も心も蕩けるようなものばかりだとしても。


「本気なのか、からかっているのか、分からないから……


ぽつりと言って、望美はもう一度頭を振った。


「って、考え事してる場合じゃないよね。
さ、さーて。本当に寝ないと。明日も皆で出かけるんだし!」


望美はわざとらしく大きな声で言って、
カーテンを閉めると、電気を消す為に、
部屋の入口近くにあるスイッチへと、足早に向かった。


まだ頭の隅に残っている、緋色を遠ざけるように。


「おやすみなさい」


自分自身に就寝の挨拶をして、灯りの電源をオフにした瞬間。
ひゅっという冷たい風が足元を過ぎた。

カーテンのバタバタと踊る影が、月明かりで部屋の壁に映る。
そして、コンッという壁を叩く音が耳に届いた。

驚いて、振り向けば。
開かれた窓と星を背に、鮮やかに笑う男性(ひと)がいる。


「こんばんは、姫君。
今日は星が明るいね……これなら『らいと』も必要ないかな」

「ヒノエ君っ!?」

さっきから頭に浮かんで、なかなか消えない男性(ひと)が、
くっきりはっきり姿を見せている現実に、
望美はくらりと眩暈を起こした。


「な……何してるの!?」

「随分驚いた顔をしてるね。
ふふっ、戸締り不十分だよ。姫君」

「戸締り不十分っていう話じゃなくて、
突然部屋に入ってきたら駄目だよ!」


歩み寄るヒノエに、眉根を寄せて言えば、
大袈裟に肩を竦められた。


「壁を叩いて『のっく』はしたけど?
あぁ、靴もちゃんと脱いでいるよ」

「靴とかそういう問題じゃないし、
ノックは部屋に入る前にするものなの!
というか、また窓から……はぁ」


前科があるだけに、深い溜息になってしまう。


「お前の驚き顔が、愛らしいのが悪い。
と思って、諦めるんだね」

「あ……愛らしいって……また、そういうこと言う……

「ん?顔が赤いね。
怒っているのかい?それとも、恥らってる?」


目の前で立ち止まって、顔を覗きこまれる。

紅玉の瞳は、薄い闇の中で見ると石榴の赤に近くて。
魅惑の力を強めた色に、鼓動が跳ねた。


「も、勿論、怒ってるんだよ!」


それを悟られたくなくて、
頬を膨らませ、怒っているという形を作っても、
反省の色は無く、不敵に笑われるだけだった。


「ふふっ……それで怒っているつもりかい?
まぁ、どちらでも、姫君が眠るまでの一時を、
オレが奪うのは変わらないんだけどね」


サラリと、とんでも発言。
に、望美の目が点になる。


「一時って、いつまでここにいる気なの?」

「姫君の寝顔を見るまで。だけど?」


更に続く、とんでも発言。
に、顔色が赤と青を行ったり来たりする。


寝顔なんて、絶対見せられない!


言葉にしなくても、表情で伝わったのか、
ヒノエが軽く片目をつぶって、小さく笑った。


「些細なことは気にせず。さぁ、褥に……姫君」

「全然些細じゃないよっ!そんなの……こ、困るし」


一歩下がって、けれど、すぐに距離を縮められて、
トンッと心臓の上を軽く指でノックされた。



本当に困ってる?オレを追い出したい?



問いかけに、息を飲む。

何も言い返せないのは、
今、ここにヒノエがいて、蜜の言葉を並べられて、
嬉しいと心の隅で思っている自分がいるから。


「返事が無いってことは、困ってないみたいだね」

「それは!……わっ!」


反論を紡ぐ前に、突然揺れた視界に、望美は目を見開いた。


「運んであげるよ」

「え!?」


驚きの声を上げても、
攫うように抱き上げられた体は、あっという間にベッドに運ばれ、
ふかふかの布団をかけられた。


「う……お願いだから、見ないでよ……

「それは姫君の願いでも、叶えられないかな」


床に膝を、ベッドの上に肘をついて、
ヒノエは楽しそうに自分の姿を眺めている。

寝顔を見る。という宣言を本当にする為に。


「ところで……姫君は『幼馴染』に見せたんだろ?寝顔を」

「へ?」

「そんな話があっちで出てね……


あっちと指差す方向には、有川家がある。
望美は瞬きを繰り返した。


「そんなの昔の話だよ?
一緒にお昼寝してたような子供の頃の話」

「じゃあ、大人のお前の寝顔は、オレだけのものだね」



ね、可愛い寝顔をオレだけに見せて……

オレの唯一の姫君。



深い眼差しで言われて、耳の端まで熱くなる。

小さな独占欲にときめいてしまう胸を、
手でそっと押さえた。


「い、嫌だよ……恥かしいし」


けれど、喜びと恥じらいは別で、小さく否定を呟けば、
ヒノエが顔を近づけてくる。


「じゃあ、眠るのを我慢するしかないかな。
因みに、顔を隠すような行動をとったら、
もっと特別な顔を見せてもらうことになるから……
やめておいた方が良いだろうね」

「もっと特別って……何?」

「聞きたい?」

「やっぱり、やめておく」


嫌な予感がして断れば、「残念」とくすくす笑われた。
ヒノエはそのままの姿勢で、再び望美を眺め始める。


コチコチコチ……


時計の針の進む音が、部屋に響くだけの時間。
に、焦れて、望美が口を開いた。


「飽きないの?」

「飽きないね」


間髪をいれずに返ってくる答え。

眩しそうに目を細められ、
早鐘を打つ鼓動を誤魔化す為に唇を尖らせた。


「ヒノエ君が先に寝ちゃえば、寝顔を見られないのに……


不満を声に出せば、
ヒノエの口の端が上がって、目の奥が光った。


「つまり、オレはここで眠っていいってことだね」

「え!」

「じゃあ、我慢比べを始めようか。
姫君が先に眠るか、オレが先に眠るかの」


いつの間にか、そんな二択になっていて、
望美の目が点になる。


どこから、どうなって、そうなったの!?


頭の中の疑問符を整理している間に、
ヒノエが自分の隣に体を滑り込ませた。

外の冷えた空気がほんの少し紛れ込んだ後、
二人の体温が重なって、体を包む温度が急上昇する。


「ヒノエ君!?隣で眠るなんて駄目だよ!」

「そう?オレは駄目とは思わないけど?」

「私は思ってるのっ!」


向かい合って眠る体勢。
長い睫も口角を上げる唇も、なにもかもよく見えて、
吐息が肌をくすぐる度に、動揺して、瞳が揺れる。


「安心して……今は何もしないよ……


囁いて、ヒノエの指先が、望美の髪に触れ、
何度も優しく梳く。

穏やかな手の動きに、強張っていた体が徐々にほぐれて、
不思議なことに、それ以上の文句が、口から出てこなかった。


「仕方ないなぁ……もう。
でも、これから……本当に我慢比べをするの?」

「んー、そうだね。
そうしたいと思っているけど、もしかしたら、
オレが先に眠ってしまうかもしれないね。
この温もりがあまりにも心地良くて、
眠りの誘惑に勝てそうにないから」

「え?ね、眠いの?」


ヒノエから先に、眠いという発言が出るなんて意外で、
望美は自分に有利だという状況も忘れ、聞き返してしまう。


「まぁね……お前の寝顔を見たかったけど、
こうして隣で眠るのも悪くないから、
どうしても眠くなったら、諦めるかな」

……そんなに眠いんだ」

「春の陽が隣にあるせい。だろうね……


話の途中で既に、ヒノエの口調はとろとろとしたものに変わっていて、
瞼もゆっくり閉じたり開いたりを繰り返している。

それから、二言三言交わしている間に、
ヒノエの瞼は完全に閉じて、スーという寝息が聞こえてきた。


「ヒノエ君?あの……眠ったの?」


答える人がいないと知っていて、問いかける。
指で軽く頬を突いても、起きなくて、望美は呆れた溜息を吐いた。


「振り回すだけ振り回して、ずるいよ」


でも、そんなところが。


「大好きなんだよね」


相手の目を見て言えない不甲斐無さに苦笑して、
望美も静かに瞼を閉じる。

緊張して眠れない。そう思っていたのに、
ヒノエの規則正しい呼吸を耳にしているうちに、
ゆるゆると意識を手放した。

そして、浅い夢をいくつか通り過ぎて、深い眠りに落ちる。
そのギリギリのところで、ベッドの軋む音と衣擦れの音を聞いて、
望美は、ほんの少しだけ眠りの世界から引き返した。


「そろそろ眠った頃かな……
ふふっ、オレが先に起きれば、オレの勝ちになるんだよ……姫君。
寝顔、ご馳走様」


内緒話をするような、微かな声の後。
蜂蜜みたいにとろりとした口づけが与えられる。



「オレも大好きだよ……オレの唯一の姫君」



甘い甘い告白は。


唇に何度も触れる柔らかな感触は。


本当に現(うつつ)なのか。



その答えを知りたくて、半分寝ぼけた状態で、
腕を僅かに上げ、手探りでヒノエの髪に指を埋めた。


「そんな風に煽る方法……どこで覚えたんだい?」



からかう口調に滲むのは恋情。

そして、深まる口づけ。



この先にある夜の姿は、誰にも見せられない。
それは、恋を繋げた二人だけが目に出来る姿なのだから。



end

阿蒼さまのサイト3minさんより戴いてきました09年お年賀フリー小説でヒノエ×望美の甘々なお話しです。

迷宮設定。(戴いてからUPまでに時間が経ってしまいました;)

■□■

二次創作に興味のない方等は回れ右して下さい。

お話しの権利は上記の方にありますので二次配布やご迷惑になる様な行為は一切お止め下さい。宜しくお願いします。

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2009年2月 1日 (日)

戴き小説「コタツ」(遙か4・アシュv千)

阿蒼さまのサイト3minさんより戴いてきました09年お年賀フリー小説でアシュヴィン×千尋甘々なお話しです^^

アシュED後設定~。遙か4は未Playでマンガ版しか知りませんがお気に入りなので配布中にお目にかかれて嬉しいです。

(戴いてからUPまでに時間が経ってしまいましたが;)

■□■

二次創作に興味のない方等は回れ右して下さい。

お話しの権利は上記の方にありますので二次配布やご迷惑になる様な行為は一切お止め下さい。宜しくお願いします。

 コタツ 




のどかという言葉が似合いの日が過ぎて、
ゆるりゆるりと陽が落ちていく。

芽生え、綻び、開いていく。
喜びと生命力に満ちた草木、そして花々が、
橙の陽に包まれて、穏やかな一日を終えようとしている。

根宮の広々とした庭にある、石で出来た長椅子に座って、
千尋は薄い紫へと変わる空を仰いだ。

黒い恐怖が消えたそこには、
懐かしさと新しさが混ざる『平和』が広がっていた。

苦しい戦いが続いた後の、清められた景色は、
何度見ても心を安らかにしてくれる。

復興が続く常世の国。

毎日が忙しいけれど、こうして国が癒えていくのなら、
私はまだまだ頑張れる。

思って、目を細めていると、背後から土を踏む音が聞こえ、
振り向くと同時に「千尋」と名前を呼ばれた。


「こんな所にいたのか。探したぞ」

「アシュヴィン!」


『大好きな人』が姿を現して、千尋の声が弾んだ。

アシュヴィンは、千尋の隣に座ると、
小さく笑って、顔を覗きこんでくる。


「陽が傾いてきているというのに、一人でどうした?」

「今日も忙しかったから、ちょっと息抜きしてたんだ。
ここ、風が通って気持ちが良いし、花の香りもするし」

「気持ちが良い……か」


呟いて、アシュヴィンは空からの息吹に揺れる花を眺め、
そして、くしゃっと千尋の頭を撫でた。


「そんな場所に変えたのはお前だ……

「え!ち、違うよ。皆で変えたんだよ」

「そうだが、やはりお前の力が大きい……感謝する」


ありがとう。


口にして、素直なそれに照れたのか、
アシュヴィンは千尋から顔を背けた。

今度は千尋がくすくすと笑う。


「なんでこっちを見てくれないの?」

……指摘は無しだ。
それより、風にあたりすぎていないか?寒くは無いか?」


突然の話題変更も照れ隠しの一つ。
それをあえて追求せずに、千尋は首を振った。


「大丈夫。そんなに寒くないよ」

「だが、今、ここでお前に倒れられたら困る」


言って、アシュヴィンは千尋の肩に腕をまわし、引き寄せた。
布越しに体温が滲んで、鼓動が跳ねる。


何度も触れ合っているのに、伝わる熱に恥かしくなってしまう。

恋心が深ければ深いほど、嬉しいのに、顔が熱くなる。


「ほ、本当に大丈夫!
あっちの……異世界の冬なんて凄く寒いんだよ。
これくらいで、倒れるわけないよ」


早鐘を打っている心音を聞かれたくなくて、
体を離しながら、慌てて口を動かした。

アシュヴィンは面白くなさそうな顔を作り、
離れた距離をもう一度縮めてくる。


「なるほどな……
だが、そんなに寒い季節をどう過ごしていたんだ?」

「どうって……?」

「こんな風に誰かの側で暖を取っていたか。
と、暗に聞いている」


それって、全然『暗』じゃないよ。


心の中で反論しながら、千尋の頭に浮かぶのは、
普通の高校生だった、橿原での日々。


冬になると風早がこたつを出して、
那岐と三人でぬくぬくしてたんだよね……


一瞬、懐かしさが通り過ぎて、頬を緩める。


そういう暖の取り方は、『誰かの側』に当てはまるのかな?


考えているうちに、焦れたアシュヴィンが先に口を開いた。


「答えが遅いな……

「別に遅いわけじゃ……

「遅い。で、誰だ?と言っても、
異世界で生活を共にしていたのは、二人だな。どちらだ?」


問いかける口調に棘がある。
しかも瞳には明らかな苛立ちが見える。

軽く睨まれて、千尋の額に一筋の汗が浮かんだ。


「どっちって……
アシュヴィンが想像しているようなことじゃなくて!」

「では、なぜすぐに答えない?」

「えーと、冬になると『こたつ』っていう物に入って温まるのだけど、
それは三人で座って使うものだから、
側にいると言えば、側にいるのかなぁって思って。
それで、答えが遅れたの」


千尋の話を黙って聞いていたアシュヴィンは、
器用に片眉だけ上げて、不機嫌な顔のまま、大袈裟な溜息を吐いた。


「分かった……では、その『コタツ』の形状を教えろ」

「な、なんで?」

「リブに作らせる。すぐに使えるように、急ぎでな」


サラリと言われて、千尋の目が点になった。


「あのー……アシュヴィン。
だから、そういう物じゃないし、
こんな暖かい気候で使う物じゃないんだよ?」

「分かっている」

「じゃあ、なんで?」


浮かんだ疑問を口にすれば、
今度は肩ではなく、腕を引っ張られ、
アシュヴィンに再び引き寄せられた。

広い胸に顔を埋めるような格好になって、
頬が、襟の開いた部分から、アシュヴィンの肌に直接触れる。

途端、耳の端まで赤くなっていくのが分かった。


「アシュヴィン!こんな場所で!」


誰が見ているか分からないのに。


眼差しを上げて、抗議しても、涼しい顔をされるだけ。


「アシュヴィン!」


もう一度名前を呼ぶ。
アシュヴィンは腕の力を強めて、千尋の耳に唇を寄せた。



……
懐かしんだお前の顔が、幸せそうだった。



囁かれた言葉に、え?と声を上げる。


「俺もそれをお前に与えてやりたい……と、
思ってはいけないのか?」

「アシュヴィン……

「『コタツ』が何かはよく分からんが、
そういう物なのだろう?」


見え隠れする嫉妬。

幸せにしたいという気持ち。


二つの感情が、胸の深い場所を震わせる。



こたつが、本当に完成するかどうかは別として。


二人が寄り添えるきっかけになれば。


二人が幸せを深めるきっかけになるのなら。


この場所で、そんな冬の風物詩も良いのかもしれない。



「熱いって文句は無しだからね」

「熱かったら、文句くらい言うさ」

「本当に、我が侭だね。アシュヴィンは」


言いながら、ふわりと微笑む。

ありがとうの気持ちを込めて。


……お前は油断ならないな」


笑いかけたのに、アシュヴィンの眉根が寄り、
千尋は首を傾げた。


「え?油断って?」

「その笑顔を、他の男から隠す物を、
リブに作らせるほうが先かもしれないな」

「どういう意味?……っわ!」


問いかけると同時に、
有無を言わさず長椅子の上に押し倒された。

天地が急にひっくり返って、焦ってしまう。


「な、ななな!何!?」

「『コタツ』が出来上がるまで、
今は、常世流で幸せと温もりを与えよう……


低い声の宣言の後、首筋に吐息が触れ、ペロリと舐められた。


「駄目だよ!アシュヴィン!」

「駄目?……俺を拒めるのか?……千尋」


言って、艶然と笑うアシュヴィン。
そして、うっとりとした口調で紡がれたのは。



『愛している』



そんな告白で。
千尋の瞳がうるりと揺れた。


「っ!……ずるい!」

「お前を手に入れる為なら、多少ずるくもなるさ」


アシュヴィンの笑みが深まった。
千尋の瞳はますます潤んでいく。


目の前にある。



甘い。


甘い。


とろとろに甘い微笑。



が、恨めしい。


言葉を返せない千尋の唇に、アシュヴィンの唇が重なった。

二度、三度、啄ばむような口づけを与えられ、
それが深いものへと変わり、体の芯が疼く。


常世の国の王様は、強引でせっかちで。




けれど、いつでも本物の恋をくれる。




「本当にずるい……


アシュヴィンに染められていく感覚。
に、酔いながら、弱い文句を口にして、目を閉じて。


千尋は、ほの暮れる天を瞼に閉じ込めた。



end

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2009年1月22日 (木)

戴き小説「乙女ゴコロ、恋模様」(恋華・斉v鈴)

鵺原 ユエさまのサイトさんより戴いてきました「xmas+お年玉フリー」小説で斉藤一v鈴花のほのぼのなお話しです。

年末年始とパソを開けない日が続きましたが2作とも配布中にお目にかかれて嬉しいです。

大石さんも斉藤さんもどちらもすき゜.+:。(*´v`*)゜.+:。

■□■

恋華シリーズや二次創作に興味のない方等は回れ右して下さい。

お話しの権利は上記の方にありますので二次配布やご迷惑になる様な行為は一切お止め下さい。宜しくお願いします。





きっと悪気があるわけじゃないんだろうけれど、
それは本当に心臓に悪いというか……―――。





「あ、あの…斎藤さん」
「なんだ。どうした、 鈴花」
「……、いえ」
「俺のことは気にしなくて良い。自分の作業を続けて構わない」

そうは云われても気になるのが道理。
繕い物をしているが斎藤の視線が気になって仕方無い。
自分の部屋にいるのに、 鈴花はまるで落ち着かなかった。
あの日以来、斎藤が自分に対しての扱いに変化が生じた。
暇さえあれば 鈴花に話しかけて来る。
未だそれなら良い。
だが、彼は二人きりになると呼称を変えて来るのだ。
桜庭』から『 鈴花』へと。
何故急に、と正直動揺が隠せないのが本音である。

「もう良いのか?」
「――えぇ」

あらかた繕いも進み、 鈴花は針を片付ける。
斎藤は彼女の傍らでその様を見守っていた。
ただ黙って涼香の髪に触れて梳いていく。
一瞬、その行動に驚くが一拍後に落ち着き、彼の好きにさせた。

「斎藤さん」
「ん、どうした」
「――どうして、急に呼び方を変えたりしたんですか?」

心地良く髪を梳かれながら、 鈴花は独り言のように問う。
柔らかな癖のある髪を気に入ったのか、斎藤は指を絡ませながら遊んで答える。
彼にとってはきっと別段差し支えないものだったのだろう。

「あぁ、近藤さんに聞いた。女は名を呼ばれると嬉しいと」
「――はぃいいい?」
「……?お前が女心を判れと云うから、俺なりにやってみたのだが……」

“違うのか?”、といきなりシュンとしてしまう斎藤に、 鈴花は逆に慌ててしまう。
オロオロしていると抱き締められ、細身ながらも引き締まった躯に包まれる。
ドクン、と心臓がひと際高鳴る。

鈴花、と俺に呼ばれるのが嫌なのか?」

それは意地悪な問い。
耳元で斎藤の心地良い声で囁かれ、 鈴花は真っ赤だ。
恐らく彼は彼なりに考え、悩んだのだろう。
まぁ、近藤に聞いたのは間違いだったかも知れないが。
だが、そんな彼の真っ直ぐな気持ちが伝わって来て、正直嬉しかった。

「――嫌じゃないです。…ただ」
「ただ?」
「いきなり下の名を呼ばれると、気恥ずかしいです…っ」

斎藤の胸に顔を押し付け、赤くなった自分を隠すようにして 鈴花は云った。
女心、乙女心とは斯くも読みがたく、理解しがたきもの。





















ゴコロ模様。

(それでも着実に貴方に惹かれ始めているのは、未だ内緒です)

















「やはり、俺はお前が好きだ」
「えと……その」
「未だ返事は良い。だが……――たまにはこうして抱き締めさせてくれると、心が安らぐ」

縋るように自分を抱き締める斎藤が可愛くて、 鈴花は優しく微笑んで抱きしめ返す。

「乙女心がもっと判ったら、ですよ……一さん?」







いずれ近くなる二人の距離。



















<了>

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2009年1月18日 (日)

戴き小説『月ノ光、太陽ノ影』(恋華・大v鈴)

鵺原 ユエさまのサイトさんより戴いてきました「xmas+お年玉フリー」小説で大石鍬次郎v鈴花のお話しです。

(HPとの背景色違いから勝手ながらタイトルの一部に薄く色付させて頂きましたv_v)

大石さんの囁く甘さがステキです((w´ω`w))

恋華シリーズや二次創作に興味のない方等は回れ右して下さい。

■□■

お話しの権利は上記の方にありますので二次配布やご迷惑になる様な行為は一切お止め下さい。

また 大人向けダメな方も回れ右でお願いします。。。












「大石さんって、月みたいですよね」
「何。どうしたの、イキナリ?」

暗い一室で若い男女が睦み合おうとする時、少女はおもむろに口を開いた。
相手の男――大石は愛撫を止めて 鈴花を見やる。

「そう、今日みたいな月の感じです」
「――ふぅん?」
「あんな妖しい感じが…ぁんっ」

仰向けの状態から見る月は逆さであったが、二人を照らす光は変わらず妖しく煌めいている。
黄色と橙色の中間色、そして今宵は満月だった。
月に気を取られていると開いた口を塞がれ、 鈴花は小さな嬌声を洩らす。
絡められた舌におずおずと応じれば、二人の口内からは猥らな水音が響いた。

「やけに積極的だね」
「久々ですから……ね」
「嫌いじゃないよ、そういうお前は」
「ぁ……んっ、ふ ぁ…!」

口付けの合間の駆け引き。
鈴花が強気に微笑めば、それが満更でもないように大石も笑う。
本当に久々の逢瀬。
任務で離れ、もうふた月も熱を溜め込んでいた。
焦がれていた口付けに、待ち望んだ愛撫……――。
何度抱いても馴染まず染まらない白い肌に赤い華を咲かせれば、首筋にはくっきりと跡がつく。
少し膨らむ美峰を揉みしだくと、それは大石の手の内で形を変える。

「ック、凄い締め付けだね、相変わらず」
「きゃ…ぁ、あぁっ……!」
「こんなにも濡れてるのにねぇ……」

鈴花の至るところに唇を寄せ、華を咲かす。
そして空いた片手で彼女の膣内を攻め立てる。
本当に待ち焦がれた行為に 鈴花は知らず知らずに蜜を溢れさす。
秘めた泉は噴き出し、大石の指をしとどに濡らした。
巧みに指を動かし、ざらついた一点を擦り上げれば、彼女はひと際嬌声をあげて膣内を締め付ける。
何度抱いても変わらぬ姿は生娘のようで飽きない。
大石は喉を鳴らして、行為を続けた。

「や…ぁ、ぁっ、ぁああああ……」
「嫌じゃないだろう。こんなに俺を求めてるのにさ」
「ひぃん!ぁ…おお、いしさ……!!」

不安そうに宙をう彼女の手を取って絡めて、開いた口を塞ぐ。
鈴花よりも大きな手が全てを包み込むように。
右手だけは攻め手を緩めず、中指で奥を突いてやれば彼女は軽く達した。
小さな嬌声を洩らし、膣は静かに収縮する。
浅い呼吸を繰り返す 鈴花を余所に、滾る熱を大石は彼女の中へ沈める。

「あっ、あっ……!痛ぅつ……」
「力を抜きなよ。俺も辛いんだから」
「きぁっ、ぁん、んんっ!」
「早くお前も俺のものに馴染めば楽なのにねぇ」

処女でもないのに 鈴花はいつも挿入時に破瓜のような痛みを味わう。
苦悶する彼女に構わず大石が腰を進めるのは常だった。
痛みで泣くのを必死に堪える 鈴花を見るのが好きというのは彼ぐらいだろう。
一番太い部分さえ入ってしまえば彼女は再び声高らかに啼くのだ。
目尻に溜まった滴を零れさせたいのか、大石はいつも挿入してから間を置かずに 鈴花を攻め立てる。
奥を突いては浅瀬に戻り、奥を突くといった繰り返しだ。
しかも巧妙に達さないように緩急をつけて 鈴花を焦らす。
そして今度は別の意味で 鈴花はいつも泣いて求めてしまう。
中途半端な熱は互いを苦しめるだけ。
大石の呟く言葉はどちらの為か。
鈴花のため?
それとも大石のためだろうか。
はたまた二人のため――……?

「ほら、イくよ」
「っ!!ひぃっ、あ……あ――――!」

ただ二人は求めあう。
重ねた掌だけは離さず、握り締めて。
最奥を突かれた瞬間、 鈴花は身を反らせ、先ほどよりも激しく果てる。
下肢から全身に向かって電流が流れたかのような快感だった。
収縮する膣に導かれるように大石は熱い迸りを彼女の子宮へ向けて流し込んだ。

月夜は照らす。
妖しい笑みを湛えるかのように、ただ静かに――。
そして二人は再び求めあった。
離れていた分の温もりを取り戻すように、心の不安を拭うように。






















太陽

(対極の存在が手を取り合って和と成す)






















「お前は太陽みたいな女だね」

自分の腕の中ですやすやと眠る 鈴花に、大石は小さく囁く。
大石が月ならば、彼女は太陽のような存在。
二人で一つの愛のカタチ。

「愛してるよ」

そっと 鈴花の瞼に唇を寄せ、大石もまた眠りにつく。
外の月は既に傾き、もうじき陽が昇りそうだった。
あたたかい光が差し込むのは、あと数刻先のこと……――。

















<了>

彷徨

(

さまよ

)

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2008年5月11日 (日)

「伯爵と妖精」戴き小説です*

あきさんのブログにて戴きました。一周年記念(おめでとうございますhappy01)のSSです。

エドリディ原作より先の二人の甘々なお話しです。大人向けOK!な方は素敵な二人のお話なのでいかがですか?

お話の権利は上記管理人様にあります。二次配布やご迷惑になる様な行為は絶対にお止め下さいね。楽しんで頂ける方・二次創作にご理解のある方は宜しければ↓へどうぞですconfident

・・・






「あっ…も、もうダメ」

「ダメ?」
「エドガー、やっ…これ以上ダメ…あ、あんっ」
「激しすぎた?」
「バカ!」
真っ赤になって怒るリディアの上から、エドガーはクスクス笑いながら体を浮かせてその隣へ寝転がる。
「ごめん、つい気持ちよすぎて」
言いながらエドガーはリディアを腕の中に抱きかかえた。
「エドガー!」
腕の中で暴れるリディアの額に、エドガーは唇を寄せた。
「愛しい奥様が回復する明日の夜まで我慢するよ」
「え!?
明日もするの!?という最後の驚きをぐっと堪えることには成功した。
「何だい?」
灰紫の瞳が面白そうに煌めき、からかうような色を帯びる。
「えっと、毎日こう、なの?」
リディアの言葉にエドガーはわざとらしくキョトンとしてみせた。
「毎日僕たちが愛し合うのか、ってこと?」
リディアは恥ずかしくなって俯いた。
しかし俯いた先にエドガーの引き締まった胸板が目に入り、リディアは逆効果に頬を色づかせた。
コクンと頷くとエドガーの笑い声が頭のてっぺんに響いた。
「リディア、僕たちは夫婦なんだから、毎日愛し合うのは当たり前なんだよ」
「そう、なの?」
半信半疑で顔を上げてくれたリディアに、エドガーは自信を持って頷く。
どうやらリディアは少し自分たちがやりすぎなのではないかと思っているらしかった。
確かにその通りなのだが、エドガーとしては世間一般を教える気は毛頭なかった。
リディアの髪を撫でる。
だが、リディアの体力も考えずに、求めすぎたかもしれない。
愛しすぎて、止められないのだ。
「リディア、僕に抱かれるのは嫌?」
気がつけばそんな質問が出ていた。
これで嫌と言われれば、多分一生立ち直れない。
捨てられた子犬のような顔をした自分が、リディアの金緑の瞳に写っていた。
「嫌じゃないわ」
じっと真っ直ぐに言うリディアにエドガーはいつもの調子を取り戻す。
「じゃあ好き?」
「えっ、えっと………好きよ」
まずい………完璧に火をつけられた。
「リディア、もう一回だけ」
「は?っきゃ!」
互いの唇が塞がれ、熱く絡み合う。
「ん、はぁ…エドガー」
「いい、よね?」
ペロリと耳朶を舐められればリディアにもう嫌という隙は与えられなかった。

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2008年5月 3日 (土)

アラロス小説「あなたと晩ごはん」戴きました(カティアイ)

【宵ノ月】のはっさく様のサイト10万打フリーで戴きました「アラビアンズ・ロスト」のカーティス×アイリーンほのぼの二次創作・小説(ED後)です。

興味のない方・批判的な方は回れ右して下さい。

下記のお話の権利は上記管理人様にありますので二次配布やご迷惑になる様な行為はお止め下さい。宜しくお願いします。

遙か3・コルダ・アラロス・ハート&クローバーの国のアリス・フルキス…ゲーム作品の二次創作サイトさまです(ヒロインと誰かな設定)。興味を持たれた方は遊びに行ってみて下さいshine

はっさく様のお話はほのぼのだったりカワイかったりでどれも大好きですhappy0110万打おめでとう御座います。他のお話もまた読みに行かねばですnotes

***

『普通』の恋愛、『普通』の生活。

 ねぇ。
 子供の頃から望んでいた『普通』って、どんなものだった―――?



あなたと晩ごはん


 カタカタと小さな音を立て、火にかけられた鍋が揺れていた。
 台所に佇むのは、終始満面の笑みを浮かべる満足そうな男と、終始眉間に皺を寄せる不満そうな女の二人である。
「ねぇ……」
「はい、なんですか?」
「これって、何を作ってたか…覚えてる?」
 時は夕暮れ。
 カーティスの髪と同じ茜色に空が染まる、夕餉にはちょうど良いタイミングであった。
 そう。現状、鍋から上がる湯気だけを見れば、支度が終わりこれからご飯だと微笑むことも出来るのだろう。
 けれど―――。
「二人で作った初めての夕食なんて、本当に楽しみですよね」
「………楽しみ」
 思わず鸚鵡返しで呟いてしまうほど、現実を放棄したようなカーティスの言の葉に。困惑しきりの様子で眉間により深い皺を刻んだアイリーンが、じっと鍋の中身を見下ろした。
 まるで、魔女の鍋ように怪しげな色をしたシチューからは、焦げ臭いというだけで説明できない危険な悪臭が漂っている。
(……楽しみ?)

 これじゃ罰ゲームですよね、なら理解も出来る。
 が、楽しみ?

「まさか、これを食べる気なの?」
「変なことを聞きますよね? 食べないでどうするんですか?」
「どうするって、そりゃ…」
 捨てる以外に選択の余地など残されていない鍋を眺めながら、アイリーンは先ほど以上に眉を顰めカーティスを仰ぎ見る。
「ん、なんですか?」
「あんたって、そんなでも人間よね?」
「…貴女は、僕を何だと思っているんですか?」
「なにって…」
 冗談や揶揄いとは思えぬ真摯な眼差しで、突拍子もないことを問うてくるアイリーンに対し、呆れ顔で肩を竦めたカーティスがふぅと小さな息をついた。
「そこで止まらないでくださいよ」
「だって……」
 人間ならば。
 まずこの鍋の惨状を見た上で尚、楽しみなんて単語を吐き出せるはずがないのだ。
(人間…というより、動物なら?)
 どう考えても危険色、危険臭に彩られた物体。
 初めての料理だから―――で許されるような、生半可な状況ではない。
(うーん、ご飯ぐらい何とかなると思ったんだけどなぁ…)
 国王との賭けに負け、駆け落ち同然でギルカタールから逃れた二人が、ようやく見つけた安住できる場所。引越し―――という可愛い単語では語弊もあるが―――をしてようやく数日が経ち、初めて立った台所で生成された何か分からない物体の数々が、今二人の目の前に並んでいた。
(……甘かったわ)
 プリンセスとしても異色で異端なアイリーンは、だからといって『普通』の一般人でもない。
 王宮で、時折遊びで台所に立つ以外―――しかも爆破騒ぎで立ち入り禁止になった―――料理などしたことのない彼女にとって、レシピさえ呪文に見えた。
 間違いなく、難解な鍵開けや洞窟での戦闘の方がアイリーンの性分に合っているのだろう。
 そんな。
 女らしさをどこかに置き忘れてきた彼女が台所で悪戦苦闘しているところに、必然のごとく鼻歌交じりで上機嫌なカーティスがやって来て。

「あんたって、ずっと一人暮らしよね?」
「そんな当たり前のことを聞かないでくださいよ。僕にとって、貴女が…初めての相手なんですから」
 と、気持ち悪い上ツッコミを入れる気力も失う言葉を並べ立て、一人もじもじと照れているカーティスに対し、意識せずとも盛大なため息が零れ落ちる。
「どうしたんですか、アイリーン?」
「どうしたもこうしたも……」
 流石は大陸随一と呼ばれた暗殺者。
 器用に野菜を切り並べたまではプロ級の腕前を見せていたカーティス=ナイルだったが、そこからの散々たる状況はアイリーンと大差なく。
「なんで一人暮らし歴の長いあんたが、シチューの中に大量の砂糖とか放り込むのよ……」
 料理初心者の自覚があるアイリーンさえ悲鳴を上げた少し前の惨劇を思い出し、彼女は唸るよう頭を抱えた。
 シチューがシチューの素から作られるのではなく、元々は別の形をしていることを知ったのは、アイリーンも今日が初めてだったけれど。
 それでも、大量の砂糖が入らないことぐらいは分かった。
「あんたの料理センスは、私以下だわ」
「酷いですね。そんなことないですよ? アイリーンよりは、器用に調理しましたし」
「あんたが役に立ったのは、刃物持たせたときだけじゃないっ!」
「ええ。それでも貴女よりはマシです」
 まったく、どこの子供の喧嘩だという言い合いを続ける二人が、お互い退く様子なく睨み合う。
 五十歩百歩―――。
 間違いなく『普通』に料理の出来る人間から見れば、どっちも素人以下であることくらいは分かってるけれど。
 それでも『普通』を望むアイリーンとすれば、カーティスだけには負けられない。
(だって……)
 料理で夫に負けるなど、妻の体裁云々というよりも何よりも。
『普通』の人間なら、元暗殺者より料理ぐらいできるのが当たり前のはずなのだ、きっと。
「私は、自分でご飯作ることなんて今までなかったんだし…今はまだ、仕方ないのよ! 機会があったのに、そんな惨状のあんたよりはずっとマシのはずだわ」
 なんて。
 悔し紛れに自分が『普通』じゃないことを曝け出し、不本意そうに唇を尖らせたアイリーンがふいと顔を背けた。
(これじゃ、自爆してるだけじゃない…)
 まさに今、自分で堂々と『普通』を望んでいたくせに『普通』になる努力をしていなかったと認めたようなものである。
 プリンセスという地位の上で胡座をかいて、偉そうに理想を並べ立てていただけ。
『普通』の生活をする時点になって初めてそのことに気付いたと、アイリーンは己の言葉に打ちひしがれるよう自嘲気味な笑みを零した。

 分かっている。
 分かっていながら―――。

「私の方が……」
 と、どこまで強がる気なのか。
 思わずそう呟いたアイリーンの言葉に、カーティスの手が彼女の髪に触れる。
「確かに。僕は天涯孤独の身の上なので、貴女の指摘は正当だと思います。けれど生憎、僕は今まで食事に重点をおく生活などしたことがなかったもので」
「………って、まさかリンゴしか食べてなかったとか言わないわよね?」
「さぁ?」
 あとは、アルコールがあれば生きていけるとか。
 そんな洒落にならないことを言い出しかねないカーティスが、肯定とも否定とも取れる笑顔を浮かべ、アイリーンを見下ろしていた。
 リンゴとアルコール。あり得るどころか、毒薬のコレクションと拷問道具、そして僅かな書物というカーティスの部屋を思い起こせば、不思議など何もない現実と思えるから性質が悪い。
「だから、あんたってこんな細いんでしょ!」
「失礼ですね。僕はこう見えて筋肉質なんです。別に、細いわけではありませんよ?」
「細いって…」
 頭上に置かれていた彼の腕を掴みながら、その主を睨み上げようとした瞬間。驚いたよう目を瞬かせたアイリーンが、どこか寂しげに微笑むカーティスの姿に息を飲んだ。
「それに……」
「………?」
「いつかどうせ死ぬのだから、食事なんて別にどうでも良いとそう思っていました」
 仕事柄、こうして家でゆっくり食事を取ることなど稀でしたしと。それが当然のことのごとく笑ったカーティスの朱の三つ編みが、微かに揺れる。
 スラムで生き抜くため、必然のように暗殺者となったカーティス。
 王宮で自分が過ごしていたように、家族団欒の食卓などあるはずもない彼の生活を思い出し、息を飲むよう唇を噛み締めたアイリーンが、掴んだままのカーティスの腕に力を込める。
「私……」
「どうしたんです、変な顔をして? 僕は、今貴女と一緒にこうして料理を作れることが嬉しいんですよ? 笑いながらでも、怒りながらでも。こうして二人で過ごす時間は、とても楽しいものですからね」
 それに、これも貴女が初めての経験ですしなんて。
 何故かまた照れたように笑うカーティスの腕を引き寄せたアイリーンが、どこか泣き笑いのような表情を浮かべ、俯きながら眉尻を下げた。
「アイリーン?」
「私…誰かのためにご飯作ったのなんて、初めてなんだから……」
 あぁ、本気で泣きそうだ。
『普通』だからとか、『普通』じゃないからなんて関係なく。
 私は、今幸せだとそう思うから。
「一緒に、食べましょ?」
 きっと胃薬だけじゃなく、色々と必要になり数日は寝込むことになるだろう。
 けれど―――。

 それでも寝込むことさえ嬉しいと思える食卓を、二人で囲みしましょう。
 そうして、これからも。
 初めてを当たり前にして、幾夜も幾夜も幸せを重ねて生きていきましょう。

 そう告げて。
 笑いながら口づけを交わした二人の眼前で、カタカタと夕餉を待つ鍋が嬉しそうな音を立てているのだった。


 あなたと晩ごはん。
 それが、二人の『普通』の幸せに変わるまで―――。

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2008年5月 1日 (木)

「恋華 花柳」小説戴いてきました♪(大輪です)

イラストの権利は当方ではなく各管理人様にあります。二次創作にご理解のない方は回れ右で!楽しんで頂ける方のみステキ小説ご覧になっていって下さいwink

二次配布等ご迷惑になる様な行為はお避け下さい。宜しくお願いします。

***

『刹那い華』の黛くららさまより3周年記念配布フリーの「恋華 花柳」の小説を戴いてきましたheart02

(こちらを併せて同時に3作戴いていますconfident恋華キャラはどのキャラもオイシイheart02)

「幕末恋華新選組&花柳剣士伝」の二次創作サイト様です。下記は大石×輪ですheart彼の様な人が本気の本命出来たらホントに凄そうです///(色々と/笑)

大石さんの苦労はきっとこれからsmile

<鈍い女>

 

「動きづらい・・・。」

珍しく普通の着物を着ている倫。
いつもの軽装に比べると動きも制限されてしまうため少し窮屈に感じてしまう。
なぜ着慣れない着物で町を外に出るはめになったのか。
それは・・・・・・。

 

 

「ねえ倫ちゃん、悪いんだけどお使い頼まれてくれないかしら?」

両手を顔の前に合わせながら、おこうは申し訳なさそうに頭を下げた。
倫はいいですよ、と快く引き受けた。

「ありがとう!こ患者さんの忘れ物を届けてほしいんだけど・・・。」

「わかりました。」

「いま地図を描くから。あ、そうそう。ちゃんと普通の格好していってね。」

「え?何でですか?」

「ちょっとね、服装とか身だしなみにうるさい方なのよ・・・だから、ね?」

「はあ・・・。」

 

 

というわけで現在に至る。
さっさと済ませてしまおうと倫は道を急ぐ。
しかし、窮屈さに気をとられて、自分の後をつけてくる気配に
全く気付かなかった。

「えっと、確かここを左・・・。」

地図で道を確認しようと止まった時、ふと目の前に影が出来る。
前を向くと、二人の男が立ちはだかっていた。

「お嬢さん、お困りかい?」

「迷子?俺たちが案内してやろうか?」

「・・・いえ、けっこうです。」

ニヤニヤとだらしのない、下卑た笑いを浮かべる男たちに呆れながら断った。
相手をしないに限る、そう思ってすぐ立ち去ろうとしたのだが。

「おっと、つれないことを言うなよ。」

素早く道をふさがれる。愚鈍そうなのにこういうことでは機敏なようだ。
面倒くさいのに絡まれてしまったなと、倫はため息をついた。
幸いたいした使い手ではなさそうだし、隙を見て当身をくらわせれば逃げられるだろう。
倫はそっと気付かれないように身構える。

「さあてと、俺たちと楽しいとこに行こうか?」 

ひとりが倫に手を伸ばしてきた。
今だ!と倫が当身をくらわせようとした、その時だった。

「おや、奇遇だねえ。」

後ろから聞きなれた声がして、倫は動きを止める。
少し気だるい感じのこの声、間違いない。

「大石さん・・・。」

「やあ倫。珍しい格好で何してるわけ?」

「珍しいって・・・。」

似合ってませんよどうせ・・・と倫は少し落ち込む。
そこにいたのは新選組隊士、大石鍬次郎。
たまに花柳館に訪ねて来る人物だ。
見たところ、どうも巡察の最中らしい。

「おこうさんに頼まれてお使いに・・・。」

「ふーん、ご苦労なことだねえ。で、あれは?」

「あれ?」

大石が顎で指したほうを見ると、軟派男たちが大石を睨みつけていた。

すっかり忘れてた・・・

「てめえ!その娘は俺たちが先約だぞ!」

「そうだ!とっとと消えうせろ!」       

ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる男たちに倫はまた大きくため息をつく。
ふと大石を見ると、大石も馬鹿馬鹿しい、と言いたげな表情をしていた。

「うるさいねえ、もう少し静かにしておくれよ。それとも・・・」

大石はニッと口の端を上げる。
嫌な予感が倫の胸をよぎった。

「そんなに俺に斬られたい?」

倫の前に立ち、刀を抜く大石。
男たちはヒッと体を強張らせて動きを止めた。

「大石さん!」

「さてと、どっちから斬ろうか。俺が選んでやってもいいけど?」

倫の声を無視して、大石は男たちに近づいていく。
一歩、また一歩。
ゆっくりと、大石は距離を縮めていく。
男たちは恐怖で身動きができないようだ。
あと数歩で大石の間合いに入ってしまう、倫は大石の腕に飛びついた。

「大石さん!やめてください!」

その声にハッと正気に戻った男たちは、悲鳴をあげながら一目散に逃げていった。
倫はホッと胸を撫で下ろし、大石から離れる。

「邪魔しないでくれよ。」

「いいえ、邪魔します。」

大石の鋭い視線に負けずに、真っ直ぐに睨み返す倫。
大石はククク・・・と不適な笑みを浮かべる。

「いいねえ、その目・・・。」

またわけのわからないことを、と倫は眉をしかめた。

「・・・私は急ぎますからこれで。ありがとうございました。」

早口で挨拶をして小さく頭を下げる。
さっさとこの場を立ち去ろうと大石に背を向けた。が・・・

「待ちなよ。」

抑揚のない声で大石は倫を呼び止めた。

「暇だからついてってやるよ。」

「・・・は?」

「聞こえなかったわけ?ついてってやるって言ったんだよ。」

いきなりの大石の申し出に倫は驚いて目をパチクリさせる。
何を考えているのか、相変わらずこの男の思考がわからない。

「大体、そんな格好で歩くなんて自覚がないにもほどがあるんじゃない?」

「どういう意味ですか?」

「・・・はあ、タチが悪いね。」

「え?」

「まあいい。行くよ、倫。」

倫の持っている地図を取ると、大石はスタスタと歩いていく。

「ま、待ってください大石さん!」

呆気に取られていた倫は、慌てて大石の後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まったく、鈍い女だね。

大石は横を歩く倫を見ながら心の中で呟いた。
女に興味がないわけではないが、あるわけでもない。
しかし、倫だけは別だった。
自分に物怖じしない女はあまりいない。
大石が知っている限り二人だ。
一人は新選組の女隊士、そしてもう一人は、この倫。
倫はさらに、自分を嫌いながらも、自分の本質を無意識に見抜いている。
大石は初めて、『人』に興味を持った。

それにしても、自分の見た目に無頓着だとは思っていたが、ここまでとは。
綺麗な娘らしい着物を着て髪を整えた倫を、大石は素直に綺麗だと思った。
街で倫を見かけたとき、すでに何人かの男が倫の後をつけていた。
大石が現れたことで隠れていた他の男たちも去ったようだが、
また倫を一人にすれば群がってくるだろう。
倫は強い。絡まれたところで特に問題はないはずだ。
先ほどだって、自分が出ずとも余裕で倫は逃げられた。
しかし、この面白い女を易々とあんな下衆に触れさせるわけにはいかない。

「今度は焦らさずすぐ斬るから安心してよ。」

「安心できません!!」

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2008年4月30日 (水)

「恋華」小説戴いてきました(藤鈴です)

イラストの権利は当方ではなく各管理人様にあります。二次創作にご理解のない方は回れ右で!楽しんで頂ける方のみステキ小説ご覧になっていって下さいwink

二次配布等ご迷惑になる様な行為はお避け下さい。宜しくお願いします。

***

『刹那い華』の黛くららさまより3周年記念配布フリーの「幕末恋華」シリーズの小説を戴いてきましたheart02

(他のお話も戴いてきましたv)

「幕末恋華新選組&花柳剣士伝」の二次創作サイト様です。下記は藤堂×鈴花です*平助ED後な感じ。いい人ーーーって感じのキャラでいいですよね・彼^^

いつか不安を乗り越えて…。そんなお話しです。

<捕らわれて>

 

「う・・・。」

ふと目を覚ました平助は、ぼんやりとしながら窓を見る。
朝陽は差し込んでいない。まだ夜明けまで時間があるようだ。

「ん?」

段々と覚醒していくと、昨夜眠るときにはなかった温かさを感じて
平助は目線と落とした。
真っ先に目に入ったのは、色素の薄い細い髪。

「鈴花さん・・・。」

自分にぎゅっと抱きついている鈴花だった。
少し体勢を変えて鈴花の顔を見てみる。

やっぱり・・・。

切なそうに目を細めて、平助は鈴花の頭を抱え込むようにそっと抱き寄せた。
一緒に暮らし始めてからも、時々鈴花はこうやって不安そうな、泣きそうな顔をして
無意識にこういう行動をとることがある。

まるで、平助をどこにも行かせまいとしているようだ。
自分の腕の中に閉じ込めようとしているかのように、平助を強く抱きしめて
起きるまで決して放そうとはしない。

油小路の事件で味わった、愛しい人を失う恐怖。
表面上は回復していても、心の奥底にはまだ残っているのだろう。
鮮明に、そして鮮やかに。
それは・・・平助とて同じだった。

「大丈夫だよ、鈴花さん。大丈夫。ずっと一緒だって言っただろ?」

鈴花に言っているようで実は自分に言い聞かせているのだと、平助は苦笑する。
しかし嘘ではない。これから先、自分たちが離れることなど決してない。
いくらあのときの恐怖が蘇ろうと、自分たちは生きているのだ、生きていくのだ。
きっといつか、色褪せて消えていく。

平助は鈴花の額に唇を軽く押し当てた。
身じろいだ鈴花の表情が和らぐ。
きっと数刻後には丸くて大きな目を開けて、この状況にいつものように
顔を真っ赤にして慌てるのだろう。
可愛い鈴花の姿を思い描いて、平助はクスッを笑みを零す。

 

 

 

だけど

「それまでは、僕にも君を閉じ込めさせて」

大好きな君をこの腕の中に。

 

君は僕を、僕は君を。

お互いの腕の中に捕らわれて、恐怖は安らぎに変わる。

夜明けまであと少し、どうか幸せな夢を彼女に・・・。

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2008年4月29日 (火)

「恋華花柳」小説戴いてきました*(永鈴&三輪です)

イラストの権利は当方ではなく各管理人様にあります。二次創作にご理解のない方は回れ右で!楽しんで頂ける方のみステキ小説ご覧になっていって下さいwink

二次配布等ご迷惑になる様な行為はお避け下さい。宜しくお願いします。

***

『刹那い華』の黛くららさまより3周年記念配布フリーの「恋華 花柳」の小説を戴いてきましたheart02

(他のお話も戴いてきましたv後日載せたいと思います)

「幕末恋華新選組&花柳剣士伝」の二次創作サイト様です。下記は永倉×鈴花夫婦+三樹×輪です~*男性陣がカワイイです(>▽<)

【未来へ】

ある天気の良い日のこと。

江戸、松前藩邸の門の前に、大きな声が響き渡った。

「ごめんくださーい!!」

「はい、何か御用ですか?」

庭を掃いていた女中が答えてやってくる。

「すみません、永倉新八さんはご在宅でしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新八さん!!」

いつものように執筆活動に励んでいた永倉は何事かと手を止めた。

それと同時に妻の鈴花が息を切らして駆け込んできた。
ただ事ではない様子に、永倉は眉をしかめる。

「い、今客人が来てるって言われたんですが・・・」

「客人?誰だ。」

「・・・三樹さんです・・・。」

鈴花が呟いた名前を聞いて、永倉は警戒を解いた。

三樹とは以前、街中で偶然再会した三樹三郎のことである。
もと新選組参謀の伊東甲子太郎の実弟であり、組長も務めた男だ。
再会したときに居場所を教えたから訪ねてきたのだろう。
しかし、新選組を脱退後は敵として対峙してしまった。
鈴花が懸念するのも無理はない。

「どうしましょう?」

「どうもしねえよ。せっかく訪ねてきてくれたんだ、喜んで迎えようぜ。」

「ですけど・・・。」

「心配ねえよ。それとも、お前はあの三樹がだまし討ちなんてすると思うか?」

「・・・思いません。少なくとも、私の知る三樹さんは。」

だろ?と永倉は優しく笑って、あやすように鈴花の頭を撫でた。
夫婦となっても、いまだに永倉はこうして鈴花を子供のように扱うことがある。
昔なら嫌がっただろうが、今は嫌ではない。
永倉が自分を愛おしいと思っているが故の行動であることがわかっているからだ。
自分の考えすぎであって欲しい、いや、きっとそうなのだと言い聞かせて、
鈴花は永倉とともに客間へと向かうのだった。

 

「よう三樹!よく来たな、嬉しいぜ。」

「こんにちは、永倉さん、桜庭さん。あ、今は桜庭さんも永倉さんでしたね。」

そういって微笑む三樹は二人のよく知っている三樹だった。
優しくて争いを好まない、あの三樹だ。
だが、やはり三樹もあの激動の中を生き抜いた男の一人である。
かつては見られなかった風格が備わっていた。

「ははっそうだな。で、今日はどうした?」

「実は、再会したことを妻に言ったらぜひ会いたいと言いましてね、連れてきたんです。」

「へえ!お前も所帯を持ったのか。」

「どんな方なんですか?奥様は。」

「二人もよく知っている者ですよ、入ってきなさい。」

失礼します、と可愛い声がして襖が開いた。
そこにいた予想外の人物に、永倉と鈴花は驚いて目を見開く。

「り、倫さん!?」

「ご無沙汰しております、永倉さん、鈴花さん。鈴木三樹三郎の妻の倫です。」

「島原のお嬢ちゃんじゃねえか!こりゃ驚いたぜ。」

島原の花柳館の門下生だった志月倫。
新選組の屯所にも時々訪れていた彼女と、永倉と鈴花も話をしたり街に出たりしたものだ。
倫もまた、少女の面影を残しながらも美しい大人の女性へと成長している。
驚く永倉と鈴花を見て、三樹と嬉しそうに微笑んでいる倫の姿に、
鈴花の中に残っていたわずかな警戒心は跡形も無く消え去ってしまった。

「これお土産のお団子です、鈴花さんお好きでしたよね?」

「わあっ!ありがとう!ちょっと待っててね、お茶のお代りも持ってくるわ。」

「手伝います。」

「いいのよ、あなたはお客様なんだし、すぐそこだから。」

「いえ、させてください。鈴花さんと久しぶりにお話もしたいし。」

「そう?じゃあお願いしようかな。」」

鈴花と倫は楽しそうに部屋を出て行った。
嬉しそうにはしゃぐ鈴花の姿を見て、三樹は鈴花の警戒が解けたことを察した。

「まったく、いつまでたっても子供っぽくて参るぜ。」

「そこが桜庭さ・・・鈴花さんのいいところじゃないですか。」

「お嬢ちゃんのほうが落ち着いて見えるしな、どっちが年上なんだか・・・。」

「ははは。」

ふと、沈黙が訪れた。
自分達が望んだことではないとはいえ、敵となって戦ったことは事実。
でも目の前の男に対して恨みや怒りというような感情は一切ない。
言いたいことはたくさんある、だが、何から言えばいいのだろうか。
永倉と三樹の間に快でも不快でもない、妙な空気が流れる。

先に沈黙を破ったのは永倉だった。

「すまなかった。」

「!・・・いいえ、鈴花さんが怪しむのも当然です。」

「いや、そのことだけじゃない。」

「永倉さん・・・。もういいんですよ、僕は新選組を、皆さんを恨んでなどいません。」

「わかってるよ、お前の顔見りゃな。俺も伊東さんたちを憎んでも恨んでもいねえ。」

「永倉さん・・・。」

永倉は辛そうに顔を歪めて頭を下げた。

「伊東さんのことは、俺たちが詫びなきゃならねえ。会談は成功したんだ、なのに・・・。」

慌てて三樹は永倉の言葉を遮った。

「頭を上げてください永倉さん!わかっています、わかっていますとも。
兄も平助君も服部さんも、皆さんのお気持ちは痛いほどわかっているでしょう。
私のほうこそ、篠原さんの暴走を止められなかった・・・。」

「それはお前の責任じゃないだろ。」

「それを言うなら兄のことだって永倉さんの責任ではないでしょう?」

「しかしだな・・・。」

「二人とも、もう良いではないですか。」

倫が優しい声で二人を諌めた。

「生き抜いた私達がそうやっていつまでも過去に捕らわれていたら、
伊東さんたちに申し訳ないじゃないですか。過去は変えられません。」

「倫・・・。」

「二人で前に進もうって、約束したでしょう?三郎さん。」

「倫さんの言うとおりだわ。」

倫の言葉に鈴花も賛同する。

「私も正直、さっきまで昔のことで三樹さんを疑って警戒していたわ。
でも、いつまでも過去を引きずっちゃいけない。
忘れてはいけないけど、これからを一生懸命生きていかなきゃ。そうでしょ?」

「鈴花・・・。」

妻たちのほうが自分たちよりも強く、逞しいようだ。
目と目でそう会話した永倉と三樹は苦笑しあう。
そうだ、お互い悟っていることを謝りあったことで無意味なことなのだ。
これから自分たちは、未来へと歩んでいくのだから。

「さっ湿っぽい話はここまでにしましょう!」

鈴花は一回手を打ち合わせてそう言うと、お茶と団子を並べる。
再会を祝うささやかな茶会が始まった。
二組の夫婦は、積もる話を心行くまで語り合う。
永倉と鈴花は甲州勝沼での戦いのあとに近藤と袂を分かち、靖兵隊として戦っていたことを。三樹と倫は鳥羽伏見の戦のあと赤報隊と共にいたこと、明治政府に受けた仕打ちのことを。

そして、一番話しに花が咲いたのは、お互いの馴れ初め話だった。
意識し始めた頃のことや想いが通じたときのことなど、照れながら話していたのだが、
ふと永倉はあることを思い出した。

「そういやお前、おこうって女が好きだったよな?」

「え?ええ・・・。」

「屯所で酔っ払って叫んでたもんなあ、おこうさんをこの世で一番愛してます!!とか。」

隣にいる倫の周りの温度が少し下がったような気がして、三樹の背にゾクッと悪寒が走る。
倫の沈黙と微笑みが妙に怖い・・・。三樹は慌てて早口で反論する。

「む、昔の話ですよ!永倉さんこそ、京都にいた頃は
馴染みの方のところによく行ってたじゃないですか!小常さん、でしたっけ?」

「小常さん・・・?」

初めて聞く女性の名前に、鈴花のこめかみがピクッと動いた。
鈴花の笑顔の妙な迫力に、今度は永倉が冷や汗を流す番だった。

「おまっ!それこそ昔の話じゃねえか!!」

「言いだしっぺは永倉さんでしょう!!
大体、昔はどうあれ、今もこれからも僕は倫ひとすじなんです!!」

「んなの俺だって同じだ!!鈴花以外の女なんざいらねえよ!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クスクス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「「え?」」

肩を震わせて今にも大笑いしそうなのを必死で堪える鈴花と倫。
我に返った永倉と三樹は、大々的に妻に告白をしてしまったことに気付いた。

「ああああの、これはだな・・・」

「えっと・・何というか、その・・・今のは・・・」

慌てふためく二人を見て、鈴花と倫は頬を染めながらそれぞれの夫に微笑んだ。

「ありがとうございます、新八さん。私も新八さんだけですよ。」

「三郎さん、私も貴方ひとすじですから。」

ああやっぱり、この可愛い妻には敵わない。
お互い真っ赤になっている顔を見合わせて、永倉と三樹は苦笑する。

「意外と似たもの同士かもしれませんね、僕たち。」

「そうかもな・・・。」

4人の楽しい笑い声は、夜遅くまで松前藩邸に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、夕飯までご馳走になってしまって・・・。」

「気にすんなって。俺たちは楽しかったぜ、なあ?」

「ええ、またいつでも遊びに来てくださいね、三樹さん、倫さん。」

「永倉さんと鈴花さんもうちに来てくださいね、今度は私が腕を振るいますから。」

「おう、楽しみにしてるぜ!」

それでは、と深々と頭を下げて帰っていく三樹と倫。
永倉と鈴花は、二人の姿が見えなくなるまで見送っていた。

「ねえ、新八さん。」

「ん?」

「今度のお花見は、三樹さんたちも誘いませんか?」

 「そりゃいいな、そうしようぜ。」

じゃあ計画を立てなくちゃ、と弾みながら藩邸内に戻る鈴花。
鈴花を追う永倉もまた、楽しそうに胸を弾ませていた。

 

             

             

 

             

 

 

 

 

「楽しかったですね、三郎さん。」

「ああ、やっぱり来てよかったよ。」

そう言って穏やかに笑う三樹の手を、倫はそっと握った。
三樹は愛おしそうに目を細めると、その小さな手をぎゅっと握り返すのだった。

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2008年4月16日 (水)

戴きBASARA小説「届け声よ、カナリアへ。」(元親×ヒロイン)

-夢喰いムシ-の鵺原ユエさまより一周年記念の無料配布で戴きました。一周年おめでとうゴザイマスbirthdaywine

お話はBASARAの元親とオリジヒロインさんのカナリアシリーズです。お気に入りのシリーズのひとつです。救いの糸口が見えてきた感じにホッとしましたconfident

シリーズの前作が気になる方は鵺原さんのサイトへ走ってみて下さいhorsedash

注意)お話の権利は当方にはありませんのでお持ち帰りや二次配布等ご迷惑になる行為は絶対にお止め下さい。

同人や二次創作に理解のある方・興味のある方はどうぞ下記もご覧になってみて下さい。

***





犯してはいけない罪を犯した。
開いていた扉を自ら全て閉じてしまった。
もう、取り戻すことの出来ない過ち。
一瞬がとても重く感じられる。
それでも……目を逸らすことの赦されない現実があるのだ。










「気鬱、ですな」
---またか」
「はやり…この時期になると躯が本能的に察して敏感なようです」
「そうか……」

暗い影を落とす元親に、侍医は励ますように言葉を続けた。

「いつにも増して情緒不安定なのは事実ですが…だからこそ、奥方の傍に居てあげて下さい。

 元親さま---貴方の真心を示すことが何よりも大切なのです」
「…わーってるよ」
「加減は難しいものですな。だけれど、これは貴方様にしか出来ないこと」

“良いですね”、と念を押して侍医は部屋から下がる。
広い部屋に元親とキユのみが残された。
キユは元々白い肌であったのに、更に白くなって寝入っている。
以前の傷は既に完治していて、それこそ傷一つない珠の肌と形容するに相応しかった。
まるで人形のようで、けれども息はある。ただ、それだけ---

「キユ」
------------
「キユ……っ」

決して呼びかけに応じられることはない。
意識があろうとなかろうとそれは変わりないだろう。
元親はそれこそ判り切っているのに、何度も繰り返し名を紡ぐ。
もしかしたら、の可能性を今も捨て切れないのだ。
あの時、手を放してしまったのは間違いなく自分。
云い分は云い訳にしか聞こえないから云うのを止めた。

「キユ…キユ……」

例え赦されなくても、己はずっと自分を呪い続けるであろう。
彼女の為に最善を尽くす、それが答え。
全ての真実から目を背けない。
心を八つ裂きにされそうな思いを抱こうと、
愛する彼女が負った傷に比べたら安いものである。
彼女の心の傷は今の彼女の存在そのものだから。
それだけの報いを自分は受けているのだ。
物憂いな表情でキユを見つめていると、突然彼女は魘され出した。
苦しげに悶え、目尻には涙を浮かべている。
夢見が悪かったのか、苦悩しているように感じられた。

「オイ!大丈夫か、キユ…!?」

慌てて元親が声を掛けるが、キユは夢と現で混乱しているようだった。
瞳を開けても元親を視界に映さず、ただパニック状態を起こしているようである。
呼吸も平常よりも速く荒い。
このまま行くと過呼吸になり兼ねない。
始めは動揺した元親であったが、意を決して彼女を起こして抱き寄せる。
---
力強く、安心させるように。そう、まるで全てを包み込むように。

「大丈夫だから、暴れンなって」
----~~ッ!!」
「俺はもう…ぜってぇお前を傷つけネェから……」

錯乱状態のキユに、元親は何度も囁き掛けるように言葉を紡ぎ出す。
引っ掻かれて腕や顔も傷がついたが、それでも彼女を抱き締める腕は緩めなかった。
ただただ、安心させるようにしっかりと腰に手を回している。
泣きそうだった、と云えば事実である。
けれど今は弱くある時ではない。
彼女の為に出来ることを最大限自分自身でやらなければならなかった。

「俺はお前を……キユを愛してンだ……ッ」
------------。」
「ずっと…ずっと傍に居っから、泣くなよ…」

泣きそうなのは自分だなんて云えない。
だけれど静かな部屋には一つの鼻の啜る音が響く。
ギュッと彼女を抱き締めると、彼女は徐々に躯の力を抜いていった。
弛緩したような状態でキユは元親の鼓動の音を聞いていた。
トクン、トクンと一定の律動が鼓膜に響いている。

「俺には…お前が何よりも大切なんだよ……」

それは心の底から叫ぶように絞り出した言葉。
キユの肩に顔を埋めながら、元親は呟いた。
すると、今まで無反応であった彼女がそっと彼の腰に手を回し出す。
その手は実にたどたどしいものであったけれど、確かな温もりは其処にあった。














届け声よ、




カナリアへ。













カナリアの声は未だに戻らない。
心も当時のまま、時を刻むことを止めてしまった。
だけれど彼女に声を掛け続けることを止めはしない。
いつかきっと届くと信じて、希望を捨てずに寄り添おう。
かの時見た鴛鴦を夢見て。






















<了>

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